気高き国王の過保護な愛執
「聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」


首をかしげるルビオは、綿のくつろいだ上衣をまとっている。だが腰に締めたベルトに、実用的な鞘に収まった短剣を提げているのがフレデリカは気になった。


「先代の国王と、第一王子について、私は知ることが許される?」


ルビオが口を開いたところに、クラウスがさっと手をやり、制止した。それを払いのけ、ルビオは「リッカなら自分で噂を集め、いずれ真実にたどり着く」と友人を見上げた。

ほんの少し考える様子を見せ、クラウスは「それもそうですね」と承諾した。

話し始めたのはルビオのほうだった。


「父上と兄上は亡くなったことになっている」

「ことになっている?」

「遺体がどこにあるかわからないんだ」


不穏なはずだわ。

たったこれだけの説明でも、王城の空気を理解するには十分だ。

フレデリカの表情がこわばったのを見て取り、ルビオは机に手を伸ばし、文様の入った瓶とグラスをとってフレデリカに供した。蜂蜜酒だ。


「ただふたりとも、突然病床につき、臨終を今か今かと待っている状況だったらしい。だから父上については逝去したものとし、王位を継承することにした。きみも知っている通り、王の座が空くのは最大の悪行だからね」

「兄殿下は?」

「王位につける状態ではない、ということだけ王城内には周知している。それ以上のことは誰も知らない。本当に、誰も知らないんだ」


継承式や国葬が行われなかったわけだ。王城はそれどころではなかったのだ。


「ディーターまでもが行方不明になっていましたから、弟君である先の第三王子の継承の準備が進んでいました。そこへゲーアハルト卿が、彼を連れて戻ってきたんです。当時の王城の混乱を、お見せしたかったですよ」

「さもありなんだわ」

「さいわい、クラウスがぼくの状態にすぐ気づき、動いてくれた。ぼくは足を滑らせて崖から落ち、身体が癒えるまで療養していたってことになった」

「矢傷については?」

「そんなものはありません」


クラウスが断じた。その語気の鋭さに、フレデリカは怯んだが、すぐに「わかりました」とうなずいた。
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