気高き国王の過保護な愛執
どうにも落ち着かなかった。

秘密と、うっすらとそれを覆う嘘ばかり。

そんなものに囲まれて、ルビオは生きている。




長居もまずい。

話がひと段落したところで、誰からともなく腰を上げた。


「クラウス、ちょっと、先に出ていてくれないか」


忠臣はなにも聞かず、扉の外へ出て行った。部屋にはルビオとフレデリカが残った。

ふたりは黙って見つめ合い、やがてどちらからともなく相手を抱きしめた。


「無事でよかったけど、あなたが心配よ」


背中に回した腕から感じる、痩せたルビオの身体。ルビオはきつくフレデリカを抱き寄せ、首筋に顔を押しつけた。


「僕にはクラウス以外、味方がいない。正確に言えば、誰が味方か判断するすべがない。王城ではなにかが起こってる。ぼくの秘密を知っていることで、リッカが危険にさらされる可能性もある。それを伝えたかった。くれぐれも気をつけて」

「私は大丈夫。しっかりやるわ。それより顔を見せて」


かなり力を込めて相手の胸を押しやり、やっとルビオの腕をはずすことに成功した。ルビオの顔は、美しさと陰りが同居していて、フレデリカの胸をしめつけた。


「ルビオ…」

「ここはぼくの部屋だ。だがぼくは、それが本当かどうかすらわからない。ただそう教えられたから、そういうことにして暮らしているだけだ」


──まやかしみたいだな、今のぼくは。

かつてそう言っていたルビオは、生まれ育った場所に戻ったことで、より強くそれを感じているように見える。

自分だけがなにも知らない。それがどれほどの孤独か。


「ぼくは自分すら信じられない。きみを守ると言えない」


困ったような微笑みで、悲しげにルビオは言った。

フレデリカは、小さく首を振ることしかできなかった。
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