気高き国王の過保護な愛執
「失礼いたしました」

「不用意におれに近づくな。言っておいたはずだ」

「申し訳ございません」


深々と頭を下げ、その姿勢のまま、木の葉が作る影に沈み込むように消えた。あの大きな体躯を、音も立てずに扱いきる様子は、まさに猛禽類だと思った。

気配が完全に消えるのを待ち、ルビオは慎重に短剣を右腰の鞘に収めた。全身を覆っていたぴりぴりした緊張が、しだいに解けていくのがわかる。

やがて「ごめん」と力なく微笑んで、フレデリカを振り返った。


「身体が勝手にね…、動くんだ」


恥じ入るように言う彼に、フレデリカは首を振ることしかできなかった。

つまり昔から、ルビオはこういう環境に置かれていたのだ。誰が味方かわからず、相手が幹部であっても気を許せない。

記憶をなくして戻ったから孤独なのではない。もともと、王城内で孤高の存在だったのだ。いったいどうして。

ルビオがフレデリカのかたわらに、片膝をついた。緋色のマントが、遅れてふわりと彼の肩と腕を隠した。


「ゆうべ、きみに言わなかったことがある」

「え?」

「ぼくは父と兄を殺した疑いをかけられている」


フレデリカはルビオの顔を凝視した。冗談や誇張の色はなかった。


「ぼくは自分がそんなことをする人間ではないと信じたい。だが信じるに足るだけのものがない」

「あるわよ」

「リッカの言葉は嬉しい。だが冷静に考えて、ないんだ。そんなものはない」


ひっぱたいてやりたくなった。それをしなかったのは、頬を赤くして公務についたりしたら、ルビオの立場がますます悪くなるだけだからだ。


「あなたを信じてる、私のことを信じてはくれないの」


ルビオは悲しげに、だがきっぱりと首を振った。


「ぼくらが一緒にいたのは、ほんのひと月の間のことだ」
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