気高き国王の過保護な愛執
フレデリカの足首を見たクラウスは、「よくこれで自力で帰ってきましたね」とあきれ返った。
自室に戻ったところに、ルビオの命を受けた彼が待っていてくれたのだ。
「ガヴァネスの意地です」
「その様子だと、勝機が見えた?」
麻布の端切れに膏薬を塗りながら、クラウスが口の端を上げる。フレデリカは濡れた髪を拭きながら慎重に「どうでしょう」と答えた。
「陛下が、くだらない噂についてお話しされたようですね」
「ただの噂だとお思いですか?」
寝台に腰かけたフレデリカの足元にひざまずき、湿布を足首に貼る。包帯を巻く器用な手つきを、感心しながらフレデリカは見つめた。
「そんなことができる人でした?」
返事がもらえなかったので、質問を重ねた。
うつむいているクラウスの表情は、フレデリカからは見えない。
「必要であれば、したと思いますよ。それはたとえば、誰か大切な人を守るため、といった意味ですが」
白い包帯が、足首を覆っていく。
「以前の彼は、張り詰めていて──常にどこか、影を連れているような方でした。彼の母君は亡くなっています。知っていましたか?」
「いえ…」
「先王のお子は四人。ディーターの兄君である第一王子、ディーター、弟君の第三王子、それからイレーネ殿下です。全員母君が違い、このうちディーターの母君だけが亡くなっています。彼は母親を覚えていません」
包帯の端をさっと糸で縫い留め、クラウスは使った道具を手早く片づけ始めた。
「先王は第一王子を、王妃は自身の息子である第三王子、カスパル様を溺愛しました。ディーターには誰も、見向きもしなかったんです…いや」
クラウスは茶色の巻き毛を揺らし、「もっと悪い」とフレデリカを見た。
「彼は何度か殺されかけています」