気高き国王の過保護な愛執
青い道しるべ
王都の主要な通りは、王城から放射状に伸びた縦糸と、その間を繋ぐ横糸で成り立っており、半円形の蜘蛛の巣のような形をしている。
放射状と言いはしたが、正確には違う。簡単に王城に辿り着けないよう、王城を正面に見ながら歩いているつもりでも、わずかに歪曲した道に導かれ、気づけば別の方角を向いていたりする。
──という知識を持ってはいたが、体感するのは初めてであるフレデリカは、始めこそ面白がって、進んで道に迷っていたものの、次第に苛立ちを募らせていた。
「どうしてあそこに見えてる王城に帰れないの!」
道端で地団太を踏んでいると、笑い声がした。路肩に置いたテーブルでくつろいでいる初老の男性が、にこにこしてこちらを見ている。
「新顔かね、お嬢さん」
「ええ」
「王城に続いているように見える道の大半は偽物だ。本物の道には、よく見ると青い玉が点々と埋まっている。道案内をするみたいにね。それを探すといい」
そんな目印が!
本や薬といった私的な買い物のために出てきたフレデリカは、王城の人間であるしるしを身に着けていない。王女のガヴァネスといえばそれなりに敬意を払われる立場だが、おそらく下っ端小間使いあたりに思われている。
もとよりフレデリカはそのほうが気楽で、買い物に出るにあたってクラウスから『これを見せれば支払いは不要です』と持たされた印章があるものの、要するにそれは王城に請求がいくということで、個人的な買い物に使う気はない。
ただ山ほど買った荷物を、王城に届けてもらうという楽はすることにした。だから今は手ぶらだ。
初夏の兆しも見え始めた暖かな日だが、男性は葡萄酒を少しずつランプの火で温めては飲んでいる。うらやましくなり、帰ったらやろうとフレデリカは決めた。
「知りませんでした、ありがとう」
「戦争が終わったとき、先々代の王様が埋めなすったのさ。平和の証だね。青い玉が取っ払われる日が来たら、それはどこかから攻め込まれる可能性が出てきたってことだ。今のところそれはない」
「終戦をご存じ…ではないですよね?」
歴史の好きなフレデリカは、つい尋ね、「さすがに知らん」と笑われた。
「生まれてはいたが、物心つく前に戦争は終わった。だが先々代の王様の統治は見てきたよ。思いきりがよく視野の広い方だった」