気高き国王の過保護な愛執
目を細める男性の物言いに、すなわち先代はそうではなかったという意味合いが込められている気がして、フレデリカは気になった。

男性が王城を振り仰ぎ、「今日は"血まみれ王"がお城にいなさるね」と微笑んだ。

王が城内にいる日は、青い旗が上がる。これが戦後の風習であることはフレデリカも知っていた。


「その噂をどこで?」


思わず男性の対面の椅子に座っていた。身を乗り出すフレデリカに、男性は心持目を見開きながらも、好ましそうに見つめた。


「ここに一日中座ってりゃ、嫌でも耳に入る。なんでも王座を奪うために父王と兄王子を取って食ったとか」


また物騒な尾ひれがついたものね、とフレデリカは内心であきれた。


「信じます? 食べたとかいうのは、置いておいて」


この会話が不敬にあたらないか考えているのだろう、男性は顎髭をなで、宙を見つめた。


「去年、小麦が不作だったのは覚えてるかい」

「ええ。私の故郷は例年通り獲れて、いつもの何倍もの値で売れたと聞いた」

「そりゃあ、安定した土地に生まれたことを感謝すべきだね。ほかでは近年まれに見る不作だった。市民には緊張が走ったが、王様はすぐさま国庫を開き、価格の暴騰や外国からの悪質な流入を防いだ」


当時を思い出すように、たくましい腕を組む。


「ここ数十年、形骸化していた裁判制度を見直したのも今の王だ。市場の反発を退け、病気の豚を使ったら罰するという仕組みも敷いた。知らん奴は知らんだろうが、この夏、病で死ぬ人間は格段に減るとわしは見てる」


そこに同じ年代の男性がもうひとり、「王様の話か!」と陽気に割り込んできた。断りもなく椅子を足し、赤ら顔で親しげに身を乗り出す。


「ありゃいかん、血なまぐさい噂ってのは不吉だよ。それに今の王様は、俺たちに顔を見せない。こりゃもう、最大の失策だね」

「うむ、あれはまずいな」

「顔を見たい?」


フレデリカはふたりに尋ねた。
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