気高き国王の過保護な愛執
「お前に嘘はつきたくない、打ち明けよう。おれは療養などしていない。原因はわからないが、なにもかも忘れた状態で城を出て、ここにいるフレデリカに助けられた」

「誰にも言わないわ」

「ありがとう」

「どうしてなにもかも忘れてしまったのかも、忘れてしまったってことね」

「その通り」

「私のことも?」


兄王がはっとした。言葉を探すように視線を動かし、その目が王女の手首に落ちたとき、見開かれる。


「おれが贈った腕輪だ」


言ってから、どうして自分にそれがわかったのかわからない、といった様子で王はぽかんとし、捧げ持った王女の手を見つめた。


「都にジョングルールが来たんだ、外国から…珍しくて、お前は夢中になった」


湧き出す記憶が、ひとりでに口からこぼれているような口調だった。

フレデリカは初めて目にする、ルビオの記憶が戻る瞬間を、声も出せず見守った。


「一座の中に、お前と同じ年頃の娘がいて、その娘がつけていた琥珀の腕輪を、お前が欲しがった。おれはこっそりそれを買い取り、お前にやった…」


そこで言葉は途切れた。王は自分の頭の中をかき回し、続きを探すように、眉根を寄せ、王女の手に目線を置いてはいるもののどこも見てはいない。


「兄さま」


肩をそっと叩かれ、王はびくっと妹姫を見上げた。


「安心して、兄さまは、ちゃんと兄さまよ」

「…夏だったな。腕輪をはめてやった、お前の服の袖は、短かった」

「私、誰にもその話をしてないわ。ねえ兄さま、不安になることないわ。あなたはディーターよ」

「だが思い出せるのは、これきりだ」

「構うものですか。あなたはいつだって私を一番にかわいがる、兄さまよ」
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