気高き国王の過保護な愛執
ひそやかな誓い
「あの王妃さまは、私のお母さまを王城から追い出したのよー」
よー、よー、よー…と丘陵に響くこだまに耳を澄まし、イレーネ王女は満足そうに息をついた。
後をついて歩くフレデリカは、誰もいないとわかっていながら、周囲を見回さずにはいられない。
「そういうことを全力の大声で言わないでください」
「妾から第二夫人にしようとしたお父さまに反対して、堂々といびっていづらくさせて、王城にいられなくしたのー」
のー、のー、のー…。
シロツメクサが覆う広々とした丘に、日差しが降り注いでいる。王城から岸壁沿いに一刻ほど歩いた開けた土地で、王家御用達のお忍びの場所だ。
フレデリカはクラウスに頼んで持たせてもらった、パンや葡萄酒の入ったかごを提げ、王女を追った。
「イレーネ様、走らないで、ひとりになってしまいます」
「大丈夫だよ、ちゃんと見てる」
ルビオが笑いながら追いかけてくる。荷物を持って小走りするフレデリカに、長い脚を使った余裕の歩調で並ぶ。
「見えなくなっちゃうから言ってるのよ」
「ぼくらじゃない」
さっと周辺を指で示されたものの、なにも見つけることができず、フレデリカは眉をひそめた。
小高い灌木、地面の隆起、立木。
気配すら感じ取ることができなかったが、そこここに護衛がいるに違いない。
「だから前日までに行き先を決める必要があるって言ったんだ」
「安らがないわね」
「ぼくらはこんなものさ。きみだって似た境遇だったんじゃない?」
ルビオは微笑み、「そろそろいい?」とフレデリカの手からかごを取り上げた。王城を遠く離れるまでは、王には持たせられないとかたくなに譲らなかったのだ。
今ではフレデリカは、素直に手を離した。