気高き国王の過保護な愛執
ちぎった草をもてあそんでいたルビオが、フレデリカを見上げた。


「あの村を出て、尼僧院で一年過ごして、王城に呼ばれて来てみたらあなたがいて、しかも王様で、こうして私の隣でごろごろしてる」

「人聞きが悪いな。多忙な身体を休めてるんだよ」

「ルビオを拾った実感すら、今初めて手にしているかもしれないわ」

「そこから?」

「いきなり現れて、幻みたいに消えた自覚がないの?」


ルビオが肩をすくめる。

今日はいつもより簡素な装いとはいえ、利き手である右腰の高い位置に短剣を提げており、それを隠すために毛織のマントを巻いている。

村で暮らしていた頃の、無防備でのびのびしたルビオを思うと、フレデリカはなんともいえない気持ちになった。


「ぼくの現実は、あそこから始まってるんだ」

「そうなのよね」

「もっとぼくの実体を感じたいなら、膝枕してよ」

「見張りがいるんでしょ?」

「"血まみれ"のお手つきになるのなんて、なんでもないんだろ?」


フレデリカは足を伸ばし、ドレスのしわを払った。


「仰せのままに」

「ため息つくなよ。ぼくの頭を膝にのせられる女性なんて、何人もいないぜ」

「ありがたき幸せよ。今日は脚を洗わないわ」


イレーネのほうを向いて膝に載ってきた頭を、なんとはなしに指で梳いた。見事な金色の髪。指を通すたび、いい香りがする。


「嘘だよ」

「え?」


重みが消え、ルビオが腕をついて、半身を起こした。フレデリカを覗き込む、不思議な色の瞳。


「リッカだけだ」


いわくもなにもなく、民衆の前に姿を現すことができたなら、熱狂の渦を巻き起こすだろうに。歴史上類をみないほど、愛され誇られる王になるだろうに。
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