気高き国王の過保護な愛執
第三章
孤高の若き王
王都に夏が来た。
一日に一度、激しく降る雨と、けろっと忘れたように晴れ渡る空。
このあたりの夏は一日のうちの気候の変化が激しく、その変化が、秋の実りをもたらす。
夏は当然のごとく、分厚い壁に覆われた王城をも包み込んだ。
バラ園の一角にある、テーブルと椅子が置かれたくつろぎの空間。
そこで、暑い暑いとこぼすイレーネの腕を、水を含んだ布でフレデリカが拭いてやっている。
「うわー、すーっとする」
「おわかりになりますか? 液体が気体になるとき、周囲の熱を奪うんです」
「リッカはちょっと、空でも見上げたらいいと思うわ」
気が乗らないときは、なにを言っても吸収しなくなるイレーネがため息をついた。
常に惜しみなく知識を与えようとする、真面目なフレデリカが、言われた通り上を見て、「夏雲が発生していますね」と言い出した。
「あの森のような雲が生まれる条件を、覚えていますか?」
「地面や水面が熱くて、空の上のほうが寒いことでしょ」
やぶへびだったとイレーネの顔が悔いている。
ルビオはくすっと笑った。
フレデリカがうなずき、人差し指を立てる。
「もうひとつあります」
「兄さまに教えてもらうわ」
「えっ、おれ?」
笑ったのを見ていたに違いない。イレーネは水で割った蜂蜜酒を飲みながら、舌を出してみせた。
ルビオは慌てて頭の中を探った。地表の高温、上空の低温…。
「ああ、わかった。空気中の水分だ」
「よくできました」