気高き国王の過保護な愛執
ルビオはフレデリカの手を握った。こうすると、生意気な口が一瞬おとなしくなるのをわかっているからだ。

フレデリカはああ言ってくれたが、ルビオの想像する過去の自分は、やはり、王子としての人生をまっとうすることしか考えつかず、しかしそれにものめり込めず、ただ日々を重ねていたつまらない人間だ。

でもそこに、フレデリカの目が加わると、別人になる。彼女の中では、ディーターは愛すべき男として生きていられる。

いつもフレデリカだ。フレデリカが、ルビオに色や奥行きをくれる。

生きる意味をくれる。

大げさな言葉だが、本当にそんな気持ちなのだ。


「私、そろそろ帰るわ」

「キスしていい?」

「いつも聞かないで、勝手にしてるじゃない…」

「いい?」


フレデリカは椅子から立ち上がりかけた中途半端な姿勢で、困ったようにルビオを見返し、赤い顔でうなずいた。

口の上では平静なくせに、最近の彼女はこうだから、たまらない。

愛しくて、反面申し訳なくなる。

気持ちしか捧げられなくて、ごめん。

うなじに手を差し入れ、柔らかな長い髪ごと、小さな頭を両手に挟む。上を向かせ、唇を押しつける。

唇はすぐにほどけ、好きにしろと言うみたいに隙間をあけるけれど、ルビオはまだそこから、なにも注ぎ込めずにいた。

ただひたすらに、唇を重ねる。

音も声もない中で、ときおりフレデリカが漏らす吐息が、ルビオを夢中にさせ、気づけば一心不乱に唇を合わせている。

腕を背中に回し、抱きしめた。

細い指が、ルビオの上衣の胸のあたりをぎゅっと掴むのが嬉しくて、笑った。


「やだ、ルビオ、熱い」

「なにが?」

「あなたの身体がよ」


急に手を突っ張って、フレデリカがルビオの腕から抜け出ようとする。ルビオの力と比べると、話にならないくらいかよわい抵抗だったので、しばらく両手の拘束の中でじたばたさせておいてから、解放した。
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