気高き国王の過保護な愛執
とたんに一歩飛びすさるフレデリカの顔は、さっき以上に真っ赤だ。

ルビオは両手を広げて弁解した。


「しょうがないじゃないか、男だもの」

「ずるいわ、急に…そういうの」

「べつに急じゃないし。なにがずるいんだ?」


フレデリカは口を開けては閉じ、泣きそうな顔になって、「困る」と蚊の鳴くような声で言った。

ずるいのはきみだよ、リッカ。

さんざんお姉さんぶっておいて、ぼくを歩かせるくせに、こういうときだけ。

ルビオが一歩近寄ると、リッカがびくっと首をすくめ、目を閉じた。

その額にそっとキスをした。


「困らないで。なにもしないよ」

「ずっとそうなら、それも困るわ」

「わがままだなあ!」


見上げてくる顔には、気高さと恥じらいと、それから実にフレデリカらしい素直な冒険心が表れている。

その唇に軽くキスをし、「おやすみ」とルビオは言った。


「おやすみなさい、ゆっくり寝てね」

「きみも」


壁に挿しておいた燭台を手に、フレデリカが出ていく。

扉が閉まった後、ルビオは片手を胸にあてた。どくどくと鳴っている。

言われなくても、身体が火照っていることくらい知っている。このところ、どうにも止められないのだ。

いつからだろう、王城で再会してからか? いや、わからない。もしかしたら最初から。

仕方ないんだよ、と心の中でフレデリカに伝えた。

気持ちの次には、身体が目覚める。それは自然なことだ。

なにが刷り込みか。全身が彼女を求めている。刷り込みくらいでこんなになってたまるか。

手を握りしめ、テーブルを離れた。日記を机にしまう。わずかな身体の傾きを、肩の引き攣れた傷痕が知らせる。
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