気高き国王の過保護な愛執
だけどなにもしないよ。

ぼくはこの国の王。

"血まみれ"の名を授かり、自分がなんの渦中にあるのかすらわかっていない、水面にやっと顔を出し、流れに従って泳いでいるだけの王だ。

きみを巻き込みたくはない。

だけどそばにいて。


「これこそわがままだ」


苦笑を漏らしたとき、扉が叩かれた。はっと振り返り、引き出しを閉める。


「誰だ」

「私です、ディーター」


クラウスが入ってきた。簡易的な夜着に、ローブを引っ掛けただけの姿だ。よほどの緊急事態だと思われた。


「どうした」

「城のふもとに、灯が」

「なんだって?」

「かなりの数の市民が集まっています。"血まみれ王"を差し出せ、王城がひた隠しにしている秘密を暴いてやると」


ぐら、と足元がかしいだ気がした。

わずかに残っていた"ルビオ"が奥に身をひそめ、ディートリヒが進み出てくるのを感じる。

頭が冷えると同時に、身体中の血がたぎる。これはたしかに、血脈のなせるものなのだろうと、頭の片隅で考えた。


「暴動か」

「明け方から本格化するでしょう」

「ゲーアハルト卿を呼べ」


クラウスが眉をひそめた。


「武力で押さえつける気ですか」

「いいから呼べ!」


忠実な臣下であり幼なじみは、それ以上は尋ねず、素早く出ていった。
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