気高き国王の過保護な愛執
凍てついた汗
「見事でございますな」
ゲーアハルトの珍しい賛辞を耳にしても、ディーターは身動きひとつしなかった。
辺境へと行軍を始めた騎士団が悠然と闊歩すると、最初こそ威勢よく棒やたいまつを構えていた民も、蜘蛛の子を散らすように逃げる。
王城と王都をつなぐ丘。人だかりで黒く染まったそこに、細い道ができていくのを、ディーターと大臣は王城の上から見守った。
太陽が地平線から完全に顔を出した。
チリ、と頬を焼いたのは、朝靄を切り裂く日差しか、背後の男が向ける視線か。
ディーターはマントを翻し、階下へ続く階段へ向かった。
「母上に報告でもするがいい」
自分の呼気が、かすかに震えているのを感じた。
「下げてくれ」
朝食を半分ほど残し、席を立った。
毒見に毒見を重ねて供される食事は、ぬくもりのかけらもない。いつもはそれでも無理やり飲み込むが、今日ばかりは喉を通らなかった。
予想通り、自室に着く前にクラウスが現れた。報告がいったのだろう。
「体調がすぐれないのなら医師を呼びますよ」
「今朝、健康だと言われたばかりだろう」
不機嫌に言い放つ王に怯むこともなく、クラウスは後をついてくる。
「どうしたんです、暴動を鎮めた案も、見事でしたよ」
「あんなものは一時しのぎに過ぎない。いずれまた起こる」
「二十年前ならうまくいったかどうか怪しい。ですが戦争を知らない世代がほとんどとなった今、完全装備の兵が隊列を組んで歩くだけで、民衆の気をくじくのに十分だった。よくそこに賭けましたね」
「脱がせてくれ、重い」
いくつもの扉を抜け、自室に入ったところで、気力が尽きた。寝るとき意外は身に着けている簡易的な防具が、耐えがたい。
机に手をつき、首を垂れる。やがてクラウスの手が、マントの紐を解き、鎧の革帯を外した。