気高き国王の過保護な愛執
「兄さま、できるなら園丁を変えたほうがいいわよ。大事な草と雑草の区別もつかないみたい」

「うん、クラウスに頼んでおく…」

「かわいそう、リッカ。きっと明日になったら、"血まみれ"は夜になるとどんなふうに情熱的なのって聞かれるんだわ」

「イレーネ様には、そういう冗談はまだお早いです」


耳を赤くして先生ぶるフレデリカがかわいらしくて、ルビオはつい笑い、反撃にきつい一瞥をもらった。


「たびたびごめん」

「朝の暴動の件、耳に入ってるわ。大変だったのね」


ふと真顔になり、フレデリカがルビオの髪に手を伸ばす。頬に張りついた髪を耳に流すようにして、心配そうな顔をした。


「顔色が悪いわよ、大丈夫?」


すがりついてしまえたらいいのに。

そんな思いを押し隠し、ルビオは微笑み返した。


「大丈夫だよ。けがをさせることもなくて済んだ」

「街へ出たとき感じたの。王都は二分されている。あなたの治政を評価している人と、血なまぐさい噂のほうが好きな人」


風がもてあそぶ髪を手で押さえ、フレデリカが遠くを見るような目つきをした。


「だけど暴動を起こすほどくすぶっているようには思えなかった。なにが火種になったのかしら」

「人の心なんて読めないよ」

「でもある程度、操ることはできる」


誰にも聞かれないようひそめた、硬い声だった。

ルビオははっとし、改めて感嘆もした。彼女が少ない情報から、自分と同じ推測に辿り着いていたことに。

しかし慎重に、なにも言わずにおいた。やがてフレデリカのほうが、「ごめんなさい、忘れて」と明るい声を出した。


「考えすぎね」

「ぼくの記憶をよみがえらせる方法を、知らないか」


フレデリカが、浮かべかけていた笑顔をさっと消し、ルビオの顔を凝視した。
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