気高き国王の過保護な愛執
「機を見てイレーネに提案してみよう」

「任せます。ディーターから言うのが一番でしょうから」

「そういえば、気になっていたんだが」


返信を丸め直してクラウスに預け、ルビオはふと思い出した。


「王立書院で働いていたリッカを、ガヴァネスにと指名したのは、クラウスじゃないんだろう?」

「ええ、違います」


誰だったんだろう。

候補にあがる女性がそう多くないのはわかる。しかしあまりにも偶然が過ぎやしないかと、ルビオには思われるのだ。


「まあいいか、それよりクラウス、今晩…」


言いかけたのを、自分でもなぜだかわからず、飲み込んだ。

クラウスは不思議そうに首をかしげる。


「はい?」

「いや、なんでもない。夕餉の前に共和国とこの国のやりとりをさらっておきたいんだが、頼めるかな」

「書簡も議事録もまとまっています。お持ちしますよ。気になることでも?」

「今回の派遣要請は、いくら共和国とはいえ図に乗りすぎなんじゃないかと思ってね。こちらが十分な対応をしたことを、負債にしてやれないかなと」


共和国がまだいくつもの領地の集まりだった頃、それらを束ね、のちの国境となる防衛線を守ってやったのが、ディートリヒ一世、ディーターの祖父の治めていたテルツィエールだ。

共和国の前身である都市共同体は、当時その豊富な資源を強大な隣国に狙われていた。テルツィエールは共同体の戦いを支援し、和平協定の交渉の場にも立ち、礼としてこの小さな王国の守護を共和国に約束させた。

隣国に劣らない成長を遂げた共和国は、なにかにつけ王国を併合しようと画策するが、知らぬ存ぜぬで独立を貫き通し、自由な貿易と自治で身の丈にあった繁栄を遂げているのがテルツィエールの歴史であり誇りだ。

クラウスは幼なじみを見つめ、くすっと笑った。


「それでこそ私のディーターですよ」

「こういう性格だった?」

「公正、平等を愛する男でした」

「優しかった?」
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