気高き国王の過保護な愛執
ちょうどフレデリカに、クラウスとした話を聞かせたところだ。男は部屋の隅にうずくまり、なにかごそごそやっている。

手持ち無沙汰気味に、ルビオたちはテーブルについていた。


「そう? 繊細な人って素敵よ」

「ごめんね、図太くて」


軽口を叩いたルビオの手を、テーブルの上でフレデリカが握った。ルビオは自分の手がいかに冷えていたかを知った。

笑おうとしたが、それもうまくいかなかった。唇を噛み、ゆがんだ苦笑を漏らす。


「情けないな」

「ルビオはルビオよ。大丈夫」


生成色の綿のドレスを身に着けたフレデリカは、くつろいでいて、温かみがある。向けてくれる微笑みに、むしろ不安は募った。


「まったくの別人になるかもしれないよ」

「そのときはそのときよ」

「きみを忘れるかも」


フレデリカはぎゅっと手を握り、にっこり笑った。


「そうしたら、また自己紹介をするわ」


ルビオ自身、一度の試みで人格が入れ替わるほど完璧に記憶が戻るなどと、信じているわけではない。

なにか、忘れてしまったことの欠片でも浮かび上がってくれば幸運。そのくらいの思いでいる。

じゃあなにがこんなに不安なのか。

フレデリカの言葉ですら、支えとして不足なほど自分が怯えているのは、なにに対してなのか。


「ご安心を。今晩はほんの少し、探るだけでございます」


男が突然話しかけてきたので、ルビオはびくっとした。

いつの間にか部屋の隅に香が焚かれ、覚えのある香りを漂わせている。この匂い、なんだったか。


「なにをするんだ?」

「眠っていただきます」

「おれが?」

「そう。そして私と一緒に、記憶をさかのぼります」
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