気高き国王の過保護な愛執
手の中の闇
「ルビオ!」
フレデリカの悲鳴のような声を聞いた。
はっと我に返ったとき、ルビオは床の上にいた。わけがわからず、こちらを見下ろすフレデリカの心配そうな顔を見返す。
汗が額を伝い、目に入った。
耳につく荒い呼吸の音が、自分のものであると気づいた。
「ぼく…?」
「すごく暴れたのよ、記憶が戻るのを、嫌がるみたいに」
滴る汗を、フレデリカが布で拭う。またか、とルビオは自分に失望した。
「ここまでにいたしましょう」
ローブの男が静かに言い、部屋の隅に行って香を消した。
「また三日後に」
深々と身を屈め、お辞儀をする。そのままあとずさり、続き部屋に消えたか消えないかのうちに、いなくなっている。
どこから出入りしているのか、いつもさっぱりわからない。
ルビオは床に座り込み、長椅子に顔を伏せた。
心臓が激しく鳴り、身体中からまだ汗が噴き出ている。
「ルビオ…まだ続ける気なの」
盥の水で布を絞り、フレデリカが首筋を拭いてくれる。ルビオは気力をかき集めてうなずいた。
今夜で四回目。男の導きで、一歩一歩、記憶をさかのぼる旅をする。
フレデリカに拾われたときから始まり、川を流され、滝を落ち、肩に激痛を覚え、胸まで流れに浸かってなにかから逃げた。
なにから?
思い出せないのではなく、自分は振り返って追っ手を見ることはしなかったのだろうとルビオは考える。漠然と戻りつつある記憶に、日の光はない。おそらく夜、自分はどこかから逃げ出したのだ。
振り返ったところでなにも見えないとわかっていたから、振り返らなかった。そして命がけで夜の川に飛び込んだ。
もしくは落ちた。