気高き国王の過保護な愛執
叫び声は、ますます己を動揺させた。

わからない。

なにひとつ実感がない。

肩の矢傷が熱を帯びる。突如記憶の淵に浮かび上がってきた、青い瓶に呼応するように。間違いない。毒、瓶、矢。これらすべては、同じ時間の塊の中にある。

誰かがディーターの罪を知っている。彼を追い、矢を射かけた人間がいる。十中八九、この王城内に。

思い込むな、そうと決まったわけじゃない。

だがほかに、どんな可能性がある?


「しっかりしなさい、ディーター。小瓶が見つかっただけです。あなたとの関係など、まったくわからないんですよ」


うつむいたディーターに、クラウスが言葉をかける。

だがあの侍女の目つき。仕草。

人々がどう受け止めているか、あれがすべてを表している。

独りだ。

床を見つめながら思った。

王城へ来てからというもの、ずっと独りだった。だがそれでも、クラウスやフレデリカがいた。

今や、自分すら自分に寄り添うのをやめてしまった。


「おれは誰だ」


血のにじんだ布を、顔に押しあてる。


「おれは誰だ…」


陰謀の覇者"血まみれ"か。孤独な王子、ディーターか。ルビオか。

もし、選べるのなら。

選べるのなら──…。




「ルビオ!」


目の前にあの、ぼうっと光る丸い石があった。一瞬、自分がどこにいるのかすらわからず、ルビオは手近にあったものを握りしめた。

それはちょうど、ルビオの手を握ろうとしていたフレデリカの手だった。


「様子がおかしすぎるわ、今夜はもうやめましょう」
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