気高き国王の過保護な愛執
ね、と振り返った先には、ローブの男が立っている。懐に球をしまい、彼がゆっくりとうなずいた。


「大丈夫だ、続けてくれ」

「どう見ても無理よ」

「もう少しなんだ」


扉までたどり着いた。あとはそれを開けるだけ。そんな気がするのだ。

すぐ向こうに、求めているものがある。耳を澄ませば気配を感じ取れる。そのくらい近くまで、来ている気がするのに。


「だめよ」

「リッカ…」

「私は医者の娘よ。今のあなたに、これ以上無理はさせられない」


フレデリカは毅然と手をひと振りし、男を下がらせた。男はローブから覗く口元を微笑ませ、従順に消えた。

ルビオは長椅子の背を掴み、鉛のように重い身体を起こした。

汗が身体の表面を流れ落ち、衣服に染み込む。気持ちとは裏腹に、身体が扉を開けることを拒んでいる証拠に感じられた。

脚を下ろし、深く息をついたルビオの足元に、フレデリカがひざまずいた。


「なにを焦っているの、ルビオ」

「焦らない理由が、ぼくにあるかい」


自嘲の色を聞き取り、フレデリカの顔が曇った。

毒の瓶の話は、彼女が部屋へ来たときに伝えてあった。瓶が見つかったという噂はフレデリカもすでに耳にしていたが、ルビオがその瓶に見覚えがあると聞くと、さすがに言葉を失った。


「自分がやったと思っているの?」

「きみは思わないの?」

「思わないわ」


フレデリカは考え事をしているらしく、ごく自然な仕草で、ルビオのひざに手と顎をのせた。オットーとくつろいでいるときのように。

ルビオはつい、フレデリカの髪をなでた。オットーがよくそうしていたからだ。

ひざに感じる重みが増し、フレデリカの力が抜けたのがわかる。ルビオは愛しくなり、小振りの頭をゆっくりとなで続けた。
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