気高き国王の過保護な愛執
「あなたがやったんだとしたら、絶対にどうにもならない事情があったのよ」

「事情があれば、やってもいいのかい」

「あなたが、なにかに追い詰められてしたことなら、私は許すわ」


フレデリカの指が、おそらく無意識に、ルビオのひざを引っかいた。下衣の肌触りを確かめるように、布地をこする。

冗談めかして、やめて、と言おうとしたが、声が喉に張りついて出てこない。


「むしろ、そうまでするほど怯えてた"ディーター"を、慰めてあげたいわ」

「人を簡単に信じすぎだよ」

「ひと月一緒に暮らした人を信じるのは、"簡単"?」

「一緒に暮らしたのは、ぼくだろ?」


フレデリカが顔を上げた。茶色い瞳が、燭台の炎を映して揺れている。

ルビオは息苦しさを覚え、唾を飲み込んだ。


「そう、あなたよ」

「きみが知ってるのは、ルビオだ」


不満そうにフレデリカが口元をゆがめる。物わかりの悪い生徒を前にした教師みたいだとルビオは思った。

フレデリカは立ち上がりながら、ルビオのほうへ手を伸ばした。両手でルビオの顔を挟み、言い聞かせるような口調になる。


「私が知ってるのはね、今ここにいる、あなたよ」


やめてくれ。

今、自分の手はすがるものを探していて、なにひとつ手の中にないことに絶望していて、空を掻いている。

そこにそんな、信頼を注ぎ込むのはやめてくれ。

受け止めきれなくて、溺れそうになって、だけど唯一、今のぼくが手に入れられるかもしれないもの、それはきみだと、心が勝手に手を伸ばしてしまう。

フレデリカの瞳が、驚きに見開かれるのを見た。


「ルビ…」


力任せに腕を引っ張り、倒れ込んできたところに口づけた。髪に手を入れ、逃がさないよう腰を抱き、身体を入れ替えて彼女を長椅子の上に転がした。

起き上がろうともがくのを、ドレスの脚の間に膝を入れ、裾を踏みつけることで封じ、覆いかぶさって再びキスをする。
< 92 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop