気高き国王の過保護な愛執
扉の向こう
呼ばれた気がして、フレデリカは王城を振り返った。
誰もいない。
当然だ、こんな深夜に起きている人間なんて、不寝番か自分くらいだろう。
月がうっすらと照らす中庭で、フレデリカはひとり、夜風に髪をなびかせて佇んでいた。
首筋に熱い、ルビオの唇の感触が残っている。
身体を抱くように、ぎゅっと腕を回した。
思わず逃げてきてしまった。
よかったんだろうか。ここのところルビオはずっと変だった。切羽詰まった表情を見せるようになり、笑わなくなり、陰が深まった。
そこへきて、王妃が公言した、先王と第一王子の毒殺の疑惑。
ルビオの企みである証拠はなく、それについての言及もなかったものの、もとからルビオへの疑いを隠さなかった王妃の発言だ。関連させずに受け取るほうが難しい。
王都と同じように、王城の中にも二派いる。
日ごろから王の良識的な振る舞いに触れていて、彼がけっして危険な人物ではないと知っている者と、そうでない者。
当然ながら、ただでさえ人との接触を避けている王と、触れ合う機会のある人間のほうが圧倒的に少ない。必然的に王城内は今、毒をもって父と兄を殺した王、とルビオをみなす空気が濃密に漂っている。
それを一身に浴びて暮らすルビオの苦痛は、どれほどだろう。
「ルビオ…」
胸がざわついた。
彼のことを考えるたび、不安を覚える。正確にいうなら、彼の記憶について思うと、だ。ざわざわと、言い知れない気分に襲われる。
はっとまたパラスを振り返った。
ルビオが呼んでいる気がする。
風が強まり、月が雲に隠れたかと思えばまた顔を現す。中庭の木々がまたたくように暗くなったり照らされたりを繰り返す。
首筋を押さえた。
いつもしてくれるキスと、まったく違った。ルビオが初めて露わにした、男としての欲望。支配欲、征服欲、それから…。
ほんとうにそう?
ぎゅっと手に力を込め、フレデリカは眉をひそめた。