気高き国王の過保護な愛執
ルビオの全身から発散されていた焦燥感、絶望、不安。逃げたくても逃げ場所なんてどこにもない。ひとりで立ち向かうしかない孤独。

すがろうとしていたのではないの。

あの手が求めていたのは、助けなのではないの。

突如、ぱらっと雨粒が降り注いだ。

いつの間にか月が完全に消えた空を見上げる。


「こんな時間に…」


天気の安定しない、王国の夏。それもじきに終わる。

──まただ。

フレデリカの肌が、ぴりっと反応した。

間違いない、ルビオが呼んでいる。

早くも滴を垂らし始めた草を踏んで、渡り廊下へと走った。

どうしたの、ルビオ。

私、すぐに行くわ。




「──はっ、は…ぁ」


ルビオは石畳に爪を立てた。

浴室の隅には、香炉が倒れて中身を濡らし、役目を終えている。そばにはルビオが渾身の力を振り絞って投げつけた、青い小瓶が転がっていた。

ふさがりかけた傷から滲み出る血が、石畳を染める。もっとだ、もっと。

痛みが脳を刺激するたび、正気が戻る。そしてあの甘い匂いが消えたことで、霧が晴れるように意識が鮮明に開けていくのを感じた。

舌打ちが聞こえ、はっとした。

顔を向けると、失敗を悟った女が、湯から上がろうとしているところだった。ルビオは素早くその首に腕を巻きつけ、引き戻した。激しく水しぶきが上がる。

女が苦しげに喘ぎ、喉をそらす。


「悪く思うな」

「あ！」


その口に人差し指と中指を突っ込み、奥歯を探った。思った通り、自害のための毒が仕込んであった。
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