秘密の携帯電話
ついつい画面を見るとジーと写真を眺めてしまう為、携帯のことしか頭に無く、
すっかり背後の気配に気づけなかった。

「ふ~ん…」

突然背後から低い声が聞こえて、びくっと体が硬直した。
薄暗い部屋という状況がさらに不気味さが増す。

「お、お疲れさまです!!」

慌てて携帯を手で覆い隠しながら、クルッと身体の向きを変えた。
しかし、振り向いたすぐ傍には今しがた待ち受け画面で見ていた神崎部長の顔があった。

「ひぃ!!」
「…旭川、それ見せて?」

あまりにもの近距離に表情がわからない。
声からして怒っているのだと推測はできる。

「えーと…それはその…ふ、普通の携帯電話です」

あからさまに動揺している雪菜にさらに追い打ちをかける。

「だったら見せてもいいだろう」
「面白くもなんともないんで…ところで、神崎部長はどうしてここに?」

震えそうな声を必死に隠して、苦し紛れに話を逸らそうとする。

「べつに。帰ろうとしたら旭川を見つけたから」

普段だったら嬉しい発言でも、今は恐怖としか感じられない。

「そ、そうですかー…私は忘れ物を取りに来ただけなので、これで失礼します!」

二人しかいない部室の中なのに、雪菜は驚くほど大きな声で呼び掛けた。

「あれ?旭川は上司に隠し事をするのかい?」

拒否権がないような言い方に逃げれないと覚悟を決めるしかない。

「携帯見せて?」

笑顔で可愛く言ってるつもりなのだろう神崎は傍から見たら
とても胸キュンな光景なのだろう…
しかし、雪菜には背中が冷たくなる程のとても恐ろしい表情にしか
思えなかった。
< 3 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop