秘密の携帯電話

side:神崎 優

　ここ数日は残業が続き、気分が重く仕事が捗らない。
一息つけようかと思った頃には、もう就業時間もすぎており、
周りは帰っている社員がちらほらいた。
　廊下にある自販機まで足を運び、コーヒーを飲みながら、
少しの間でも現実逃避がしたくて、窓からみえる景色を眺めた。

　歪みかけていた夕日がすっかり沈んでしまい、一体どれぐらい現実逃避をしていたのか、
大きなため息をつき、ディスクへと戻った。
長い休息中に他の社員たちは退社したようだった。

「そうか…」

基本的に残業の少ない部署だが、いつもならまだ数人は残っている時間帯。
薄暗くなった社内を見渡して、今日は週末だと気づいた。
繁忙期でもない週末ともなれば、残業するのも少ないか・・・

「少しだけやって帰るか…」

少し気持ちが軽くなった神崎は椅子に深く座り、パソコン横に溜まっている書類を手に読み始めた。
数枚の書類を読み終えた頃、ゴソゴソと言う音と共に人の気配に気づき、
不審者ではないかと、そっとパソコンのモニター越しに音のする方へと視線を向けた。

「よかった〜…」

そう言って、机の下から顔を出したのは、同じ部署の旭川 雪菜(あさひかわ　ゆきな)だった。
まだまだ新米だが、何事にも弱音を吐かず前向きなところが上層部にも気に入られている。
それだけではなく、少し抜けているとこもあり、そのキャラクター性なのか、
部署内の男どもに人気の社員でもあった。

　そっと旭川に近づいてみるが、まだ自分には気づいてない。
驚かしてやろうと悪戯心が芽を出し、背後に立ってみたが、それでも気づかない。
それだけ集中して何を見ているのか興味が湧いた。
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