元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「結婚については、希奈さんの中で、僕と幸せになる覚悟ができるまで待つよ」

幸せになる覚悟、か……。
出海君らしい表現。

「まずは、お付き合いから始めようか。好きなら、付き合っちゃえばいい、でしょ?」

思わず笑ってしまった。

抱きしめられる腕の力がゆるんだのを合図に、私は上半身を起こした。

出海君と正面から向かい合う。

愛情を感じる視線に、
今までの色んな出来事が腑に落ちた感覚がした。

どちらからともなく、唇を重ねる。

出海君らしい、優しくて、丁寧で、繊細なキス。

私なんかが、って卑下して彼との間に作ってきた壁を溶かして、
私でいいんだ、って思わせてくれる。

ためらいがちにそっと入ってきた舌先に、
大丈夫、あなたが大好きだから、好きにしていいよ、という気持ちをこめて応えると、
予想を上回る甘さで返ってきた。

ふと、お尻の下に違和感を感じて、唇を離す。

出海君は恥ずかしそうに目を泳がせた。
初めて見る表情。

「健全な男子なんだから、好きな女性とこういうことしてたら、こうなるでしょ。2ヶ月間も我慢してた僕を褒めてほしいくらい」

……かわいい……!

思わず、ぎゅっと抱きついて、耳元で囁いてしまった。

「私は、いいよ」

「僕は、この有様ですので異論を挟む余地はありません」





ベッドの出海君は、どこまでも彼らしかった。

とても優しく、丁寧に愛してくれた。

でもね。
肌を重ねて、壁も距離もなくなるこの世界で、
かっこいい王子様が、
とびきり色っぽくて、
時折ちょっぴりかわいい男の子の姿を見せてくれたのは、
私だけの秘密。





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