元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「それにね、寝てる楽器を起こしてあげようと思って。鳴るようになったら、希奈さんにも一度弾いてもらって、もし、よければ、希奈さんに使ってほしい」

……小学生の時とは違う、配慮に満ちた言葉。

「大切なものなのに」

「うん。初めて親からお金を借りた。働いて返したから僕のもの」

……御曹司なのに?

「大切で、大切だから半端な気持ちで弾けなかったくらい。希奈さんへの初恋と同じ」

…………え?

「小学生の時。好ましいな、って思う女の子に、半端に優しいカッコつけたこと言ったばかりに傷つけた。

僕の父親は、僕がヴァイオリンをやることを渋っていたけど、オーケストラで弾くならいいって許してもらってた。人間関係を学べるから、って。ようやくその意味がわかった。

それから大学に至るまでオケにいたんだけど、とにかく自分から人と関わるようにして、人との付き合い方を勉強した。それが社会人になっても大いに役立ってる。

大学でその好ましい子と再会したけど、また傷つけるのが怖くてなかなか話せなくて。ようやく勇気を出して誘ったのに、軽くあしらわれるし」

「うそ……あれは……だって……ごめん」
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