元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
気品ある輝きを放つ、美しいヴァイオリンを構える。
私が今使っている楽器とは、たぶん桁が違う。

弓を弦に当て、軽く弾いただけで、心地いい振動が骨に伝わった。

高価なヴァイオリンの感触を味わいつつ、ゆっくりスケールを登っていく。

迫力ある低音。
艶やかな中間音域。
高音の反応の良さは想定以上。
弓も素直に言うことをきいてくれる。

……ああ、素敵な楽器……!


この楽器が共にしてきた出海君の人生を想う。

ただの優しい王子様だったら好きにならなかったし、
ただのルックスがいい御曹司でも好きにならなかった。

出海君だからこそ、好きになったし、そんな彼とこれからも一緒にいたい。
苦労することもあるだろうけど、頑張れる。



–––––––うん。決めた。



私は出海君のヴァイオリンを抱きしめて、彼に向き直る。



–––––––「結婚してください」




王子様は、微笑んで、
想いの分だけ、
長い長いキスをしました。





fin.




< 106 / 108 >

この作品をシェア

pagetop