元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

***

次に出海君と顔を合わせたのが、大学生の時。

私は大学のオーケストラに入って、青春を謳歌していた。

2年生になって、入学式の日。式典で演奏した後、会場である大学会館から学部棟へ向かう新入生の波に向かって、サークルの勧誘活動をしていた。

「オーケストラやりませんか〜?」

声をかけながらビラを配っていると。

「やりますのでビラください」

頭の上から男性の声が降ってきた。

おお、なんて素直な新入生!

営業スマイルを浮かべて見上げると。

おっとりして優しそうなイケメンが私を見下ろしていて。

「失礼ですが、藍沢希奈さんですよね?」

……。

…………。

………………あ。


「佐々木出海です」


優しそうな雰囲気は変わらない。
顔立ちもきれいなまま、美少年から美青年に。
ただ、当たり前だけど背はかなり高くなっていて。
その細身の身体にまとうスーツは明らかに他の新入生と違った高級感。

……相変わらずの王子ぶりに、私は出海君の顔を直視できずに目線を少し下に逸らした。

あ、ヴァイオリン痣。
左顎の奥に、痣がある。
ヴァイオリン続けてるんだ。

「お久しぶりです。……僕のこと、覚えていらっしゃいますか?」

小学生の時とは違って低くなって、でも、まろやかな声と、丁寧な口調。

王子ぶりは、相変わらずどころか、むしろ増している。
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