元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
……こういうの、苦手。

とはいえ、もう大人なんだから対応するしかない。

私はうなづきつつ、答えた。

「……お久しぶり、です」

すると。

「あの時は、申し訳ありませんでした」

目の前に、頭が下げられたのだ。

90度近いお辞儀。

ぎゃぁ! いきなり何よ⁉︎

私は後ずさりしつつ、慌てて言った。

「ちょっと、やめてよ、頭上げてよ! 目立つから!」

新入生は不審な目をしながら通り過ぎていくし、サークルの友達は驚いたり興味津々だったりそれぞれの反応でこちらを見てる。これは絶対後で質問ぜめだな。

出海君は姿勢を元に戻し、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべている。

「藍沢さんを傷つけるつもりは全くなかったんです。僕が子どもすぎて気がきかなくて、ずっと後悔していて……」

……あのことを言ってるんだとわかった。

胸がかすかにキュっとなる。
苦い気持ちと、懐かしさと。
でも、ほんの少し。大丈夫。

「あのことは、別にもういいです。昔のことですから……」

「また会えてよかった。オケの中に藍沢さんを見つけたときは、」

「ハイどーも! 入団希望者かな! ありがとう!」

横から声をかけてきたのは、博史だった。

「ここに名前と連絡先と学部と希望楽器書いてね! あ、希奈はビラ配りに戻りな」
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