元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
唯一、記憶に残っているのは、私が4年生、出海君が3年生の夏。


***


大学4年生の夏休み。よく晴れて暑い日の午後、私は久しぶりに学部棟に練習に来ていた。

私の大学オケは3年生の秋で一応引退。4年生になると自由参加となる。私はしぶとく4年生の秋の定期演奏会に乗ることにしていた。
今まで研究室やバイトが忙しくてなかなか練習に来られなかったけど、そろそろ真面目に曲をさらわないとまずい。

午前中は1〜3年生レギュラーメンバーでのパート練習、午後は自由練習となる。

午後の教室は暑いせいか、人は少なかった。

空き教室でひとり、今度の演奏会の曲、ショスタコーヴィチの交響曲第5番『革命』、ファーストヴァイオリンをさらう。

だけど……、
はぁ。
いまいち集中できず、楽器を下ろした。

暑いせいだけじゃない。

博史と別れたばかりなのだ。
社会人と学生ではやはりすれ違いが多くて。
考えないようにしてるけど、ふとした時に、悲しみに襲われる。

そのとき、ノックの音がした。

ドアを振り向くと、

……出海君。
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