元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「こんにちは」の声とともにドアが開くと、
さぁっと、
爽やかな風が吹いてきた気がした。
空気が通り抜けたからかな?

2ヶ月ぶりに見る出海君は、少し印象が変わっていた。

何だろう、
シャープになったというか。

うーん、うまく言えないけど、お坊ちゃんから、大人の男に近づいた感じ?

「お久しぶりです。お疲れ様です」

彼はヴァイオリンを抱えて、そう言いながら微笑んだ。
久々の王子スマイル。

彼はこうして色んな人のところへ行っては話しかけていた。
私が話しかけられたときはいつも誰かと一緒にいるときだったから、1対1で話すのはもしかして初めてかもしれない。

「……お疲れ様」

「秋の定演、希奈さんに乗っていただいて、助かります。大きな戦力ですし、下級生も勉強になるはずです」

彼は3年生になってコンマス(コンサートマスター。オケのリーダー的存在)をしているから、これは社交辞令。

「ショスタコ弾くチャンスだから。最後が記念演奏会でラッキー」

ショスタコの『革命』は有名だけど編成が大きいから、アマオケではなかなかやれない。今回はキリ番の記念演奏会だから挑戦できるのだ。
私は卒業後は就職が決まっていたから、これが大学最後の演奏会。
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