元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
出海君は微笑んでうなづきながら窓辺に進み、晴れ渡った青空を眩しそうに見上げた。

その表情に、ドキッとした。

おとぎの国の王子様が、普通の男の子に見えたから。

慌てて気持ちを落ち着かせていると、出海君がこちらを振り向いた。

「最後なのは、僕も一緒です」

「引退するの?」

「はい。楽器ともこれでお別れです」

彼が御曹司だという話は噂できいていた。
気楽な一般人とは違う道に進むのだろう。

出海君は、脇に抱えた高そうなヴァイオリンの4本の弦を、愛しそうに、ポロロンと軽くはじいた。

その仕草の色っぽさに、またもドキッとする。

……王子様が生身の男の子に見えてきた。

慌てて言葉を探す。

「余計なお世話なの承知で言うけど、勿体ない」

「お世辞でも嬉しいです」

出海君は笑った。
でも、その笑顔は、いつもと違って、少し影があった。
王子様は王子様なりに、庶民にはわからない色んな苦労があるんだろうな。
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