元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

私は1ヶ月前まで、首都圏にある中堅の菓子メーカーに勤めていた。

過去形なのは、そこが大手食品グループに買収されたからだ。
正確には、関東にある中小菓子メーカーが何社か集まって持株会社(ホールディングス)を作り、そのトップはじめ役員には大手食品会社出身の人間が就いた。ホールディングス形式をとることで、各会社の独立性はある程度維持しつつ親会社の意向も反映させられる仕組みになったのである。

生き残りをかけた我が菓子メーカー経営陣の決断に異論はない。
あるとすれば、「若いから東京で働きたいだろう?」などという勝手な決めつけにより、私を東京のホールディングス本社に送り込んだことだ!
前述の通り、各会社の看板も工場もそのまま残って、従業員は基本的にこれまでと同じ業務を続けている。
ただ、法務や財務、広報といったホールディングスとしての仕事は発生するわけで、各会社から出向を命じられた私のような人材と、親会社から送り込まれてきた人材で、ここの東京本社は成り立っていた。
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