元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
私はしおらしく頭を下げて乗り切ることにした。

「すみません、本番までには……」

「本番までに仕上げればいいという考えは甘いと、希奈先輩から大学時代に教えていただきましたが?」

か・わ・い・く・な・い!

「弾けない人は本番までに弾けるように努力していただき、弾ける人でフォローする。当然、弾ける人には弾いていただかなくては困ります。お分かりですよね?」

……理詰めで追いこまれると、うなづくしかない。

「それに。この間のアンサンブルコンサートに乗った時、約束していただきましたよね? 定演に影響させないと」

……うわー。これを突かれると痛い。

先日、団の課外活動のようなコンサートに出た。出演条件は確かに『団のメイン活動である定期演奏会に支障が出ないようにすること』。乗ることを決めた時には勤務地が変わることなど予想もしていなかった。
ただ、幸いなことに、そっちの練習は土曜だったから何とか参加できた。
つまり、本活動は休んでるくせに課外活動には出てる状況だったのだ。

それにしても、いちいち言質をとっておくとは、交渉相手にしたくない奴。

「責任感が強い希奈先輩のことですから、約束は守っていただけると信じています」

にっこり笑う三神君を、この時ほど怖いと思ったことはない。

弾けないと怒りをかうこと、確実。

社長かつ上司の怒りをかうなど、ヒラ社員には恐ろしすぎる事態だ。

……定演、降ろされるかも……
……最悪、このオケにいられないかも……。


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