元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
コンプラ違反をしたヒラ社員としては役員様に逆らえず、連れてこられたのは、休憩ブース。
椅子と机が何組か置かれていて、自動販売機がある小部屋だ。
ガラス越しに陽が当たっていて、ほんのり暖かい。

「今日は少し暖かくなりそうですね」

彼は窓の外を眩しそうに見やる。

少しだけ、どきりとした。

一瞬、彼に男性の色っぽさを感じたからだ。

……不意に、あの大学時代、2人で話した夏の日を思い出した。

世間知らずの男の子は、すっかり大人の男性になった。

「どうぞ」

彼は椅子に座ると、会社近くにあるカフェの紙袋の中から、蓋のついた紙コップを取り出し、私の前に置いた。

え?

「藍沢さんの分です。僕のはこっち」

彼はもう1つの紙コップと、サンドイッチを自分の前に置いた。

「あ、藍沢さんは朝ご飯は召し上がりましたか? 召し上がっていないようであれば、おすそ分けしますが」

「……いえ。食べてきたので大丈夫です」

「では、失礼して、いただきます」

彼はおしぼりで手を拭いてから、テキパキと紙コップに砂糖とミルクを入れ、かき混ぜ、サンドイッチの封を開けた。

相変わらず育ちの良さが滲み出ている綺麗な手と仕草だと思った。

「藍沢さんもどうぞ? カフェラテですけど、苦手でしたか?」

「いえ……あの、どうしてですか?」

「順番待ちしていたら、藍沢さんが元気なさげに歩いていくのが見えたので」

……いつからこんなに気を遣える人になったのだ。

「お金、後でお支払いします」

「結構です」

「でも……」

「昨日、久々のオケで、三神君に何か言われましたか?」
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