元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
私は紙コップを両手で包み、その絵柄を眺める。

「……練習しろと」

「……だけど、できそうな状況ではない?」

「いえ、それは甘いとわかっているので」

もっとハードな仕事や子育てや介護をしながら楽器をやってる団員はいる。

「他の人云々ではなく、希奈さんとしては、無理な状況なんでしょう?」

「……頑張ります」

「僕はこの仕事をしているので、頑張らなくても回る仕組みや環境作りを考えてしまいます。僕もちょうど今、悩んでいることがあるんですが、希奈さんの問題の解決策を一緒に考えてみたら、いい案が浮かびました」

……何?

顔を上げて彼を見つめると。

彼は王子スマイルを浮かべて、言った。


–––––––「ヴァイオリンの練習場所として、僕の家を提供しましょう」


……。

…………。

………………はっ⁉︎


「その代わり、食事作りや簡単な家事をしていただけませんか」

「な、な、……」

私が口をパクパクさせていると、彼は笑顔で続ける。
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