元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「悪い話ではないでしょう？

僕のマンションはこの近くですから、そこに住めば通勤の負担はかなり軽くなる。防音設備が整ってますから、毎日ヴァイオリンの練習ができる。

僕の悩みは家事をする時間がないこと。外食を続けていたら今ひとつ身体の調子が整わない。

そこで、希奈さんに、大層なものでなくていいので朝晩家で食べられる食事を作っていただきたいのと、たまにでいいので簡単な家事をしていただきたいんです。

本番までの2ヶ月、希奈さんはヴァイオリンを練習し、僕は会社を軌道に乗せる。

どうです？ いいアイデアでしょう？」

「……大層な食事は作れませんよ」

我ながらアホな返しだと思う。
とんでもない提案に対するツッコミどころは他にあるだろうに。

「朝は毎日同じメニューでも平気です。夜は希奈さんが疲れていたらお惣菜でもレトルトでも文句は言いません。オケの練習がある水曜と、週末の金土日は希奈さんの家に帰ってもらっても構いません」

ってことは晩御飯作るのは月・火・木でオッケーってこと？

「食器洗浄機あります。
床掃除は基本ロボットにしてもらってます。
ワイシャツは自分でクリーニングに出してアイロンかけまでしてもらいます」

どんどんハードルが低くなる。

「当然希奈さん用の個室を準備します」

……どうしよう。
とんでもない提案に、心が傾いていく。
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