元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
心の中で拍手を贈っていると、隣から、ふぅーっと大きな息を吐く音が聞こえて我に返った。
ここ、出海君の家だった。忘れてた。
出海君を見ると、彼もこちらを見て、目をキラキラさせながら「ブラボーって叫びたいですね!」と笑った。
……。
…………また、あの感覚。
そして、動揺。
慌てて押し殺して、立ち上がった。
「ありがとうございました。部屋に戻ります」
すると、出海君の表情も、スッといつもの澄ました顔になった。
……ばかか、私は。
本当はもっと彼みたいに感動を表したいのに。
今感情を出すと、余計なものまで出てきそうなんだ。
でも。伝えるべきことは言わなきゃ。
「あの、彼のラフマニノフ聴けてよかったです。好きな曲が増えました。それに、スピーカーの音、すごくよかったです」
出海君は王子スマイルを浮かべて、「それは何よりです」と答えてくれた。
……ばかだな、私は。
残念なような気持ちになるのは、間違ってる。