元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
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「おはようございます。朝早くからありがとうございます」
キッチンで朝ご飯の支度をしていると、出海君が寝室から出てきた。
「おはようございます」と返した私と目が合うと、ふにゃっと笑って、洗面所へ消えていった。
……危ない。
……気を引き締めていてよかった。
寝起きで少し眠そうな完全オフの笑顔とか、
少し寝癖のついた髪の毛とか、
スウェットやジャージじゃなくてまさかの前開きパジャマとか、
素で対峙しようものなら、うっかり……、
つい、うっかりしてしまうところだった。
髪型を整えてスーツに着替えて食卓についた出海君は、すっかり爽やかビジネスマンだ。
「いただきます」と手を合わせて箸をとる仕草が美しくて、大学時代に初めて見た時にはびっくりしたことを思い出す。
なお、私はキッチンで細々と働いている。
出海君と一緒に食事をするのは畏れ多い。
「うん、お味噌汁美味しいです!」
一晩漬けておいただし昆布入りの水に、顆粒だし入れただけです。
「わあ。目玉焼きって、こんなにおいしく作れるんですね! こんなになめらかな白身、初めて食べました」
ひたすら弱火で加熱しただけです。
上品な仕草ながらも、もりもり食べて完食していただけて、ひと安心。
食後にカフェオレをお出しする。
出海君は一口すすると、ほーっと息を吐き、
「朝から幸せです。これから頑張れそうです」
と微笑んだ。
……また、心に引っかかる感覚。
だけどそれを捉えることを理性が拒否した。