元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
同じマンションに住まわせてくれるのだから、嫌われてはいないと思う。

同じマンションに住まわせてくれるのだから、彼女はいないと思う。……たぶん。いや、きっと。そういうことする人じゃない。


…………で?


それで、好きになっちゃったからといって、どうしようというんだ、私は?

出海君は大学時代、当然彼女がいた。
出海君と同じ学年、同じ学部。オケの子ではなかった。
でも、学年も学部も違う私でさえ彼女の顔は知っていた。なぜなら友達から学食で「ほら、あの子が出海君の彼女だよ」って教えられたから。
こう言っちゃなんだけど、普通の容姿の子だった。ただ、個性的な雰囲気の子だったなぁ、と思う。
私はその頃、あの出海君と付き合う度胸がすごいなぁ、と感心していた。周りに『この子があの出海君の彼女なんだ』といちいち思われるのも大変だっただろう。彼らが3年生の時に別れてしまった時も、いろんな噂話が駆け巡ったり興味の目が注がれたりした。
出海君の彼女になるということは、そういうことだ。

……付き合いたいわけじゃない。

……見てるだけでいい。

あーあ。この歳になって、見てるだけでいいなんて恋愛することになるとは……不毛だ。




< 48 / 108 >

この作品をシェア

pagetop