元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

「でも、ずっと、練習日であるはずの水曜日にも残業なさっているので、気になっていたんです」

どなたのせいでしょうか、常務?と心の中でつぶやく。
新会社というものは落ち着くまで時間がかかるものらしく、東京勤務になって以来毎日残業続き。オケの練習は約1ヶ月欠席が続いていた。
さすがにそろそろまずい。
今日こそは練習に出席すべく、残業しないように早く出社したのだ。


私が黙っていると、彼は苦笑を浮かべた。
それさえも品がよいのだから、王子、おそるべし。

「僕に対する苦手要素が増えてしまいましたね」

「……そんなことは……」

ある。大いにある。ヒラ社員が役員と気安く話せるものか!
が、それは当然言えないわけで。

「新会社が軌道に乗るまでは負担をかけてしまいますね。早く効率的に業務を回せるように経営陣としても頑張ります」

彼は最後に王子スマイルを浮かべてそう言うと、品良く椅子に座って、真剣な顔でPCのディスプレイを見つめた。





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