元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
翌朝、久々に自宅から出勤。
ヴァイオリンケースを抱えて電車に揺られながら、通勤時間が少ないって素晴らしいな、と思う。
疲労を感じながら出社して常務の予定表を見ると、終日外出とのこと。少しほっとした。


少し残業してから退社して、ロッカーに置いておいたヴァイオリンケースを背負いながら、出海君の家へ向かう。
嬉しさはほんの少しで、どうしようと困る気持ちの方が大きい。

スーパーに寄ってから、出海君の高級マンションのエントランスをくぐる。
このセレブな空間には相変わらず気後れしてしまう。庶民だな。

出海君の家の玄関ドアを開けると、清潔な空間が迎えてくれて、

……胸がぎゅっとなる。

好きだな、って気持ちと、
私がここにいていいのかな、って気持ち。

ふぅっと大きく息を吐いて、これは仕事だ、と気合いを入れ直す。

余計なことは考えずに、ひとまず業務をこなそう。


冷蔵庫に食材をしまっていると、私が作り置きしておいた料理を出海君が食べてくれたことがわかって、ほっとして、嬉しくなって……慌てて余計な感情を締め出した。


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