元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

テーブルに料理を並べ終わった時、ちょうど、着替えた出海君がやってきた。

「ああ、すみません、せっかくだからお手伝いしようと思ったのに」

「大丈夫ですよ」

「ブラームス、ラジオですか?」

私が付けっ放しにしていたスマホのラジオからは、ブラームスの交響曲第2番が流れている。

「あ、すみません、消しますね」

聴きたかったけど、まあいいか。

「はい、こっちのオーディオでつけます」

スマホの尖った音から一転、格段に豊かな音の波に包まれる。
ここで身分差を感じるのは卑屈というものだ。
素直に喜ぼう。

「前半から交響曲ですか」

放送は始まったばかり。
通常、演奏会の放送だと、序曲→協奏曲または中くらいの曲→後半に交響曲、というのが一般的だ。
ただ、イレギュラーはある。

「今日はブラームスの2番と3番です」

「しゃべって大丈夫ですか? 黙って聴いてた方がいいですか?」

「いえ、私は大丈夫です」

たまに耳を奪われる演奏というのがあるけど、今日のはノーマルだからBGMにできる。

「うん、僕も大丈夫だな」

出海君はそう言いながら席に着いた。
もしかして同じように感じてたのかな。

「おお、エスニック! 豪華ですね」

今日は、シンガポールチキンライス。
手がこんでるように見えるけど実は簡単。お米と鶏肉を炊飯器で炊き込む間に付け合わせを作って、彩りとか高さとかちょっとしたコツをつかんでワンプレートで盛り合わせればご馳走感アップ。洗い物も少なくてすむ。
今日はスープもつけてみた。
……別に女子力アピールとか、そんなつもりは……なくもないけど……。
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