元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

ことあるごとに「ありがとうございます」「おいしかったです」って感謝の言葉を伝えてくれるところ。
ドアを静かに閉めるところ。
寝起きのちょっとぼうっとした顔が、洗面所から出てくるとキリっとするところ。

前に感じた、出海君といて、何か引っかかる感覚。
あれは“好き”のカケラだった。

久々だから忘れてた。
いいな、が積み上がって、恋になるんだ。

ああ。好きだなぁ。
そして、
ああ。幸せだなぁ、と思う。

こうして同じ空間にいて、
ある程度の信頼を寄せてもらい、
笑顔を向けてもらえる。

この同居期間が終わったら、
この幸せを何度も思い出すだろう。

私は幸せだから。
せめて。
出海君の中で、この2ヶ月が、少しでも楽しいものになればいいな、と思う。
少しでも身体の調子がよくなって。
少しでも自由時間が増えて。
最後には、元先輩との生活が悪くなかったなと思ってもらえたら。

それで充分だ。



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