元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「あ、お花飾ってくれたんですね」
日曜夜。ダイニングテーブルの上にミニブーケを飾ったことに、食事のために書斎から出てきた出海君が気づいてくれた。
本来の家から出海君の家へ来るときに、買ってきたお花。
出海君はテーブルの脇に立って、しげしげと花を見つめている。
「この家でお花を飾るのなんて初めてかも。へぇ。花ってなくても生きていけますけど、あると心が潤うのがわかりますね。希奈さんはいつも花を飾ってる人なんですか?」
私は向かい側からテーブルを拭きつつ言葉を返す。
「花を絶やさない部屋って理想ですけど贅沢ですから、たまにハードな日が続いて疲れてる時とか、心が荒んでる時とか、自分へのご褒美として小さなものを飾るくらいです」
すると、出海君は申し訳なさそうな顔になって、
「じゃあ、必要経費にしましょう。食費と一緒に僕に請求してください」
と言った。
あ。しまった。誤解させた。
「あ。違います。そういう意味じゃなくて」
「いいんですよ。無理なお願いをしてるのはこっちなんですから」
ああ。もう。
「本当に違うんです。……出海君が、仕事大変で疲れてるだろうから、少しでも、って……」
うわ、自分で言ってて恥ずかしい!
大丈夫だよね、告白に聞こえないよね。