元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
すると。

出海君が片手で口を覆い、顔を赤らめたのだ。

え。

そして、花を見つめながら、

「……ありがとう。すごく、うれしい」

小さな声でポツリと言ってくれた。

目の前の王子様が、普通の男の子に見える。

照れてる?

……胸がきゅんとなる。

久々の感覚を心の奥にしまいつつ、花を見つめる出海君のことを、じっと見つめる。

手を伸ばせば触れそうな距離。

出海君の体温が、すぐ近くに感じられる。

意識しちゃいけないと思ってた、男の人としての身体。



–––––––ああ、くっつきたい。



そう思った途端、

出海君がこちらを向いて、

ぱちっと、視線が合った。





まずい!
反射的に目を逸らす。
逸らしてから、わざとらしかったかと反省し、さりげなさを装ってキッチンへと向かう。

バレた?

「僕、手を洗ってきて手伝いますね」

出海君は何事もなかったかのように、廊下に続くドアをバタンと閉めて消えていった。

……よかった。

私はぺちぺちと頬を叩き、気合いを入れ直した。

恋愛感情を持っていることがバレたら、この同居はうまくいかない。




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