元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました

出海君の前では絶対気を抜かないこと。
恋愛感情にひたるのは、彼がいない時か、自室で。

そんなことを心に決めて過ごす。

出海君は相変わらず忙しい。
会社の上層部から漏れ聞こえる話によれば、システム統合でグループ企業の調整に難儀してるとか、取引先との交渉に引っ張り出されてるとか、会議で社長とぶつかったとか、平社員の私には恐ろしい問題と日々戦っているらしい。

それでも、家では、私の前ではいつも通り穏やかで紳士的。

晩御飯をテーブルに並べた後、

「食べた後は私が片付けますから、そのままで大丈夫です」

と言えば、決まって、

「いえ、それくらい自分でしますから大丈夫ですよ」

と返してくれる。

後で様子を見に行くと、出海君はちゃんと食器を洗ってくれていて、書斎にいる。

お互い分かった上での儀式みたいなものが自然と出来上がっていて。

清く正しく穏やかな、大人同士の同居生活が続いていた。



< 59 / 108 >

この作品をシェア

pagetop