元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
そんなある日。
出海君の晩御飯の片付け(というかその確認)にダイニングに入ると、いつも通り食器は片付けられていたけれど、珍しくリビングから曲が聴こえてきた。
ベートーヴェンの交響曲第9番第3楽章。
あの有名な『第九』の、ゆったりした楽章だ。
そっとリビングを覗くと、
出海君がソファに座っていた。
斜め後ろから見る頭は下を向いている。
ただ、聴き入ってるにしては、俯きすぎな気が。
……寝てる?
……うたた寝して、風邪ひかないかな。
……首、痛くならないかな。
でも、よほど疲れてるんだろう。
特にここ数日は、目の下のクマが濃くなってるし。
少しの間、寝かせてあげようか。
私は、自分がダイニングで膝掛けとして使っている薄手のブランケットを持ち、出海君に近づいた。
腕を組んで、長い足は足首で交差している。
寝姿でさえも決してだらしなくない、というのがさすが王子。
でも寝顔はさすがに無防備であどけないんだろうな、と何気なく顔を見て、
しまった、
と思った時には、もう遅かった。