元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
「ゆうべ、ソファで寝てた僕に、ブランケットかけてくれて、ありがとうございました」
朝、ダイニングテーブルについた出海君が恥ずかしそうに言った。
ブランケットは綺麗にたたまれて、元の籠に戻されていた。
「風邪ひきませんでしたか? 身体痛くないですか? 起こそうかどうしようか迷ったんですけど、疲れてるみたいだったので……」
「……はい。疲れてる時はよくベートーヴェンの第九の第3楽章を聴くんですけど、昨夜はそのまま寝てしまって……。
大好きなんです、第3楽章。
ベートーヴェンの強さと優しさとあたたかさを感じて、励まされます」
……ああ、疲れてるというのは、肉体的だけでなく、精神的にでもあるんだ。
「晩御飯、何か食べたいものありますか?」
そう申し出ると、出海君は真剣な顔をして考えてくれた。
「あ。希奈さんが前作ってくれた、けんちん汁がいいな。おいしくて、身体にも心にも沁みる感じがします。あ、でも作るの手間じゃないですか?」
「切って炒めて煮るだけなので大丈夫ですよ」
なんて清廉で健全な会話。
清く正しい同居生活。
これでいいんだ。